「…アシェルタ、また首取れてるねぇ」
「んー? まぁそれだけ熟睡してるって事だけど…さすがにそろそろ起こした方がいっか」
つんつん、とアシェルタの取れた頭を突付きながらミリーは朝の支度を終えてのんびりしている。
しつこく付いた寝癖をどうにかしようとミントカラーの頭を撫でつけているのはフラットで、まるで直る気配の無い髪をついに諦めて教導団の帽子を被り支度を終えた。
二人を細かく見れば相違は多くあれど、シルエット的には見分けをつけるのは多少難しい、いわゆる“双子”である。
髪の色や目付きはまるで違うが、純粋に行動パターンや思想・好戦的姿勢・子供らしからぬ毒々しさ…などなど一般的に見て悪い所が瓜二つなのだ。
そして頭を転げさせ熟睡しているアシェルタ、こちらは球体関節の体を持つ悪魔で歳は相当いっているのだが
容姿はクラシックな黒いワンピースを着た少女、保護者というには見た目が若すぎる上に良心というものが薄い。簡単に言えば三人とも同類という事だろう。
「ぅ…ミリー、人の頭を突付かないでいただけません…? わたくしもう起きてますわよ」
あふ、とゆるく欠伸をする仕草し、転がっていた自分の頭を魔力で首に接合する。
「ああ、ごめん。でもボクたちしょっちゅうアシェルタの生首見てるんだから、これくらい良いじゃない」
「そうそう、最初に見た時は結構びっくりしたんだからねぇ〜」
頬をぷくりと膨らませちらりと壁時計を見、朝会への時間があと僅かなのを確認して
「アシェルタはいっつもなぁんにもしないけど、たまには朝会に顔出さないと怒られちゃうよ?」
と言い、二人は部屋を後にした。
「……学校、ってめんどくさいですわ」
そうぼそりと呟くと、頭が取れた以外は数千年間なんの代わり映えもしない自らの身体を確認し、
ミリーの背中の魔法陣へと召喚を行うのだった。
三時、アシェルタは紅茶とケーキを楽しんでいた。
厳密に言えばいつでもケーキの方は楽しんでいるのだが、やはり三時という時間は何か特別な時間ではないかとアシェルタは感じている。
「んー…やっぱりチョコレートケーキは良いですわね…。こう、なんて言うかねっとりと絡みつく激甘な」
「アシェルター、おいしいのは解ったから黙って食べてよ」
「アシェルタ、顔がイッちゃってるよぉ」
いつもどおりアシェルタが仕入れてきたケーキを黙々と突付くミリーとフラットに当初あった筈の感謝の気持ちは既に薄れ、
糖分による幸せを目一杯味わう不気味な球体関節悪魔をお茶のついでに突付くようになった午後。
「やかましいですわね! 人がケーキ様を味わってる時くらい大目に見れないんですの?」
途端に機嫌悪そうに眉を寄せギザギザの歯でフォークを噛み怒りを露にするが、
「ケーキに様をつける悪魔を大目になんて見れないなー」
とあっさり否定された。
「何ですの、ケーキに様をつけて何が悪いんですの? こんなに美味しいんですから様くらい良いじゃないですの!」
「アシェルタはケーキに魂捧げちゃってるよねぇ…」
呆れながら紅茶をすすり、悪魔らしからぬ悪魔をジト目で見つめるのはやはりプリーストらしからぬプリーストである。
傷を癒しはするが、それは拷問などに掛けた際に死なないよう手当てをするのであり、放置するよりもよほどえげつない使用方法だ。
勿論、拷問するのはミリーであり…こちらはしている事と選んだ道は一応一致している。
「まぁ、わたくしみたいに魂を加工するわけでもないのですから捧げてしまっても問題ありませんわ」
「「開き直られてもね…」」
こうして楽しいようなそうでもないような午後は過ぎていった…